環境DNAで牡蠣を探す――ヨーロッパヒラガキの新しい調査手法
海水を採取し、その中に残された生物由来のDNAを調べる「環境DNA(eDNA)」が、水産資源の調査に活用され始めています。
2026年8月27日、北アイルランドの沿岸マリーナでヨーロッパヒラガキ(Ostrea edulis)を検出する環境DNA分析法を開発し、現場試験を行った研究が、学術誌 Marine Environmental Research に掲載されました。
環境DNAとは何か
生物は、粘液、排せつ物、組織片などを通じて周囲の環境へDNAを放出します。海や川の水を採取して分析すると、対象となる生物を直接捕獲したり、海底を大きくかき乱したりせずに、その生物が周辺に存在する可能性を調べられます。
牡蠣のように海底や養殖施設に定着する生物でも、広い範囲を従来の目視調査だけで把握するには手間がかかります。環境DNAは、従来の調査を補う手段として注目されています。
今回の研究で行われたこと
研究チームは、ヨーロッパヒラガキのミトコンドリアDNAにあるCOI遺伝子を対象とした、種特異的なqPCR分析法を開発しました。コンピューター上、実験室内、現地の3段階で、対象種を区別して検出できるかを検証しています。
現地試験では、吊り下げられたヨーロッパヒラガキの近くで、その種の環境DNAが検出されました。研究報告による検出限界は1反応あたり1.96コピー、定量限界は11コピーでした。
- 牡蠣を採取せず、海水から対象種の存在を調べる方法を検証した
- ヨーロッパヒラガキを識別する種特異的な分析法を開発した
- 沿岸マリーナの現場試験で検出を確認した
- 調査時期や場所によって検出結果が変動した
「見つかった」と「多くいる」は同じではない
研究では、採水した時期や場所によって検出状況が異なりました。潮流、水温、水の混ざり方、DNAの分解など、沿岸の環境条件が結果に影響すると考えられます。
したがって、環境DNAが検出されたことは対象種の存在を示す有力な情報になりますが、検出量だけで牡蠣の個体数や資源量を単純に判断できるとは限りません。目視、潜水、採捕などの従来調査と組み合わせ、継続的に確認することが重要です。
広島牡蠣との違いと今後の可能性
今回の研究対象はヨーロッパヒラガキであり、日本で広く養殖されるマガキ(Magallana gigas)を直接調べた研究ではありません。そのため、研究結果をそのまま広島の牡蠣養殖へ当てはめることはできません。
一方で、対象種に合わせた分析法を整備できれば、天然個体群の確認、再生事業の評価、養殖海域周辺の長期モニタリングなどに環境DNAを活用できる可能性があります。海の状態を継続して知る技術は、牡蠣資源と魚食文化を未来へつなぐうえでも重要です。
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一次情報
Hutton C, et al. Development and field testing of an environmental DNA assay for the European flat oyster (Ostrea edulis) in a coastal marina. Marine Environmental Research. 2026. DOI: 10.1016/j.marenvres.2026.108374