会社名の由来は『白鯨』の主人公です。

もともと捕鯨会社で働いていたからというより、そもそもメルヴィルの『白鯨』を読んで捕鯨に興味を持った経緯がありました。あまりにも印象的な導入部の台詞 、”Call me Ishmael.” に惹かれました。

このイシュメイルそのものの由来はなんであるかについて、岩波文庫版の新訳では次のように解説されています。

…旧約聖書に出てくるイシュマエルに由来する。聖書のイシュマエルはイスラエル人の祖とされるアブラハムが、その正妻の一時的な不妊のゆえに、正妻の同意を得て奴隷女ハガルに産ませた長男である。にもかかわらず正妻のサライが嫉妬して、ハガルにつらくあたるようになったので、それに耐えかねたハガルが砂漠に逃亡して生んだのがイシュマエルである。…「イシュマエル」という名には、遺産を絶たれた者、追放者、放浪者、世には向かう者というふくみがある。この名にはそういう由来があるため、親が自然な愛情からこの名を自分の子どもにつけることはまずない。

　この含意は知っていました。しかしながら、イシュメイルはこの小説の主要登場人物でただ一人生き残る人物でです。「イシュマエル」という後ろ向きに捉えられていた表象がポジティブに転回する（生き残る）『白鯨』の批評性が、最後に大きく表われます。もしかすると反捕鯨運動の根底にあるものに対しても、この批評性は有効であるかもしれません。会社名をイシュメイルとした所以です。